新型「Mac Pro」デザイン、良いの悪いの?

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新型「Mac Pro」のデザインについて、書く理由?

それは、2019年6月4日にAppleの開発者イベントである「WWDC19」で発表された新型「Mac Pro」のデザインについて、SNSなどでおろし金みたいだとか、スティーブ・ジョブズが生きていたらこんなデザインは許されなかった、という発言や感想を多く目にしたからだ。
 
発表された新型「Mac Pro」に対して私が感じたのは、プロ向けのMacとしてめちゃくちゃカッコ良いし、よく考えられているスゴいデザインだなということだった。そして、多くの発言や感想に対して、新型「Mac Pro」の表面しか見ていないと感じた。
 
ちなみに、私は大人になって初めて購入したパソコンが2世代前の「Mac Pro」だったし、初めて購入した携帯電話が「iPhone」である。生粋のApple好きでなので、世間や一般の人たちと比べたら、明らかにAppleびいきであることは間違いない。だから、発表された新型「Mac Pro」を見ただけで、思わずカッコ良いと条件反射してしまう面もあるだろうと思う。
 
だがしかし... である。
 
せっかくAppleが考え抜いて設計して、スゴいデザインの製品を発表したのに、そのスゴさや魅力が多くの人に理解されていないのだとしたら、個人的に残念でならない。それが、新型「Mac Pro」のデザインについて、あれこれ書きたくなった理由である。
 
ちなみに、私はデザインについて専門教育を受けたことがなく、独学と経験で学んできた人間である。だから、ここで書くことがデザインの一流の人から見て、正解なのかどうかは分からない。
 
それでも、仕事で映像やアニメーションを制作してきて、人生の大きな楽しみとして映画・アニメーション・ゲームを愛する人間として、デザインをどのように捉え、デザインの本質をどのように考えているか、多くの人に分かるように書くことができたらと思っている。
 
なぜ私が、新型「Mac Pro」のデザインがスゴいと評価するのか?
 
最後まで読んでもらえたら、あなたにもそれが分かるのではないかと思う。
 
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そもそもデザインって何だろう?

そもそも、デザインって何だろう?
 
という話をしはじめると、さまざまな分野の人によって答えが違っていたり、解釈が違っていたりするのが、デザインという概念の難しいところである。なので、個人的な偏見もふくめて、私なりに大ざっぱにデザインという概念を説明してみたい。
 
例えば、ゲーム・デザイナーという仕事がある。海外の制作スタジオの場合、ゲーム・デザイナーにも多くの専門職があって、ゲーム・デザイナーという言葉だけですべてを網羅して説明するのは困難なのだけれど、あえてざっくり説明してみよう。
 
ゲーム・デザイナーの仕事は、ゲームに必要となるさまざまな要素についてアイデアを出して、それがプレイヤー・ゲーム性・物語・世界観・操作性・難易度・敵や相手に良い影響を与えられるように計画して、それをチームに提案していくことである。
 
なので、ゲームに登場するキャラクターの外見を作るのは、ゲーム・デザイナーの仕事ではなく、キャラクター・アーティストの仕事となる。同様に、ゲームを宣伝するための画像を作るのは、グラフィック・アーティストの仕事となるし、ゲームの世界や背景を作るのは、エンバイロメント・アーティストの仕事となる。
 
日本でデザインというと、人の目に触れるものすべてを作る人のことだと考えられている場合がある。それだと、ゲーム開発の例でいくと、キャラクターの外見を作るのも、宣伝用の画像を作るのも、ゲームの世界や背景を作るのも、すべてデザイナーの仕事ということになる。
 
私の考えでは、デザインとはそういうものではない。
 

では、デザインとは?

デザインとは、開発者が作りたいものを、どうすれば利用者にとって素晴らしい体験にすることができるか、それを徹底的に考えて構築することである。その延長線上に、実際に製品を設計をしたり、表面的なもの装飾的なものをを作ったりすることもあるだろう。
 
けれど、デザインの本質は、利用者にとって素晴らしい体験を生み出すために、なにが必要で、なにが不必要で、それらをどのように構築していけば良いかを考えることだ。その本質がしっかり構築できていないと、表面的なもの装飾的なものでしか利用者の体験を向上させることができない。
 
例えば、ゲームを開発するとして、どんなに登場するキャラクターたちの外見を魅力的にすることができたとしても、ゲームの世界観や内容、プレイする楽しさが平凡だったとしたら、完成したゲームは平凡としか評価されないだろう。なぜなら、そのゲームはキャラクターたちの外見に強く魅力を感じる利用者にしか、素晴らしい体験を提供できていないからだ。
 
そう考えると、先に紹介したゲーム・デザイナーの仕事も納得してもらえるだろう。
 
ゲーム・デザイナーの仕事は、ゲームを構成している多くのアイデアが、どのようにゲーム全体に影響を与え、プレイヤーの体験を向上させるかを考えて、それを構築していくことである。ゲーム・デザインは、ゲーム開発において核となるような、本質を決定づけるとても重要な仕事である。
 
ここ数年、デザインという言葉がさまざまな業界で使われるようになったのも、決して偶然ではない。というのも、利用者の体験を向上させたいと考えているすべての業界の人たちにとって、デザインが決定的に重要であることが知られるようになってきたからだ。
 
これは、新型「Mac Pro」のような新しい製品設計だけの話では終わらない。
 
令和の時代には、家具、文房具、建築、自動車、アプリ、サービス、ゲーム、飲食店、公共事業、さまざまな組織、行政機関、政府など、利用者が存在するすべての業界において、なにをどうデザインするかが決定的な意味や価値を持つようになる。

優れたデザインは、求める機能から生まれる?

デザインは利用者の体験を素晴らしいものにするためのものだけれど、実は、開発者が求める機能によって、なにをどうデザインするかが大きく変わってくる。
 
その有名な事例を紹介しよう。
 
あなたがパソコンを使うときに入力しているキーボードには、アルファベットが配置してあると思うのだけれど、なぜこの配置なのだろうと疑問に思ったことはないだろうか? ちなみに、現在多くの人が使っているキーボードの文字の配置は、キーボードの左上に並んでいるアルファベットから「QWERTY」配列と呼ばれている。
 
これは、パソコンが開発されるずっと以前、英語のタイプライターが開発されたときに生まれたもので、最新の研究によると、タイプライターの開発テストに採用された電報オペレーターたち(受信したモールス信号を英語に変換する人)が、打ちやすいように配列したものである。
 
もし当時の開発者たちが、単純に文字を打つスピードを追求していたら、「QWERTY」配列ではなく、別の配列が採用されていただろう。
 
というのも、文字が存在するあらゆる言語には、その言語に応じて、どの文字が多く使われ、どの文字がほとんど使われないか、文字によって出現頻度が大きく違っている。例えば、英語であれば「e」や「a」は出現頻度が高くて、「z」や「q」は出現頻度が低い。
 
なので、出現頻度の高い文字を、両手で打ちやすい場所に配置すれば、文字を高速に打つことが可能になる。世の中には、そんな考えから考案された「Dvorak」配列(英語用)というものもあるのだけれど、考案された頃には「QWERTY」配列が圧倒的に普及して、多くの人がそれに慣れてしまっていたので、現在でも「Dvorak」配列はほとんど普及していない。
 
このような事例は、世界中に無数に存在している。
 
つまり、デザインというのは、それだけで独自に存在しているものではないということだ。開発者が求める機能、性能、顧客の声、予算や価格、ブランドやポジション、時代性や環境など、さまざまな要素や制約によって大きく変わってくるのが、デザインなのである。
 
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求めた機能が分からないと、優れたデザインかどうか分からない?

なので、本質まで突き詰めて考えると、その製品やサービスが優れたデザインかどうかは、開発者がそれにどんな機能を求めたのかが分からないと、判断することができない。
 
多くの人が素晴らしいと感じるデザインであったとしても、開発者が求める機能が充分に達成されていないのであれば、それは悪いデザインということになる。逆に多くの人が違和感を感じるデザインであっても、開発者が求める機能が充分に達成されているのであれば、それは優れたデザインということになる。
 
ここまで書くと、求める機能を達成するためだけにデザインすると、美しさやカッコ良さが感じられないのではないかと考える人もいるかもしれない。実は、世の中には機能だけを徹底的に追求したら、どんなデザインになるかという分かりやすい例がある。
 
それは、兵器や武器である。
 
兵器や武器は、戦場で兵士を守ったり、敵を攻撃するために存在するもので、殺傷能力、運用しやすさ、ステルス性など、徹底的に機能を追求してデザインされている。うっとりするような曲線美や、利用者が高級感を感じられるような装飾などは、まったく考慮されていない。
 
そんなものだから、兵器や武器の外見はどれも無骨で無愛想なのだが、世界中のさまざまな人たちが、兵器や武器に美しさやカッコ良さを感じている。もちろん、人によって好みがあって、第二次世界大戦中のドイツ戦車が大好きとか、アメリカの重火器が素晴らしいとか、ステルス性能を持った最新の現代兵器がカッコ良いとか、さまざまな趣味嗜好がある。
 
その恐ろしい殺傷能力さえ考慮しなければ、確かに兵器や武器には、独特の美しさやカッコ良さが感じられるというのは、かなり多くの人が理解できるのではないかと思う。
 

新型「Mac Pro」デザイン、良いの悪いの?

それを判断するには、Appleが新型「Mac Pro」にどんな機能を求めたのか、そこを理解することが重要となる。
 
今回、Appleが発表した新型「Mac Pro」のデザインに対する、世界中の人たちの反応を見て、私が感じたのは、デザインと機能の関係性をまったく考慮せずに、デザインだけがあれこれ語られていることへの違和感である。
 
デザインの奥底には、求める機能がある。
 
スティーブ・ジョブズが戻ってきてからずっと、スティーブ・ジョブズが亡くなって以降も、Appleは求める機能を最大限に発揮できるように、利用者が素晴らしい体験を得られるように、デザインを追求しつづけている。もちろん、その過程で判断ミスもすることもあるのだけれど、目指しているものは変わっていない。
 
私がAppleを愛しているのは、まさにそれが理由である。
 
Appleは、世界中のあらゆる人たち、さまざまなタイプの人たちを顧客だと考えていて、製品開発からアプリ開発、店舗開発から製品パッケージにいたるまで、徹底的にデザインを追求している、世界的にも珍しい企業なのである。
 
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新型「Mac Pro」に、Appleが求めた機能とは?

それを語る前に、まず「Mac Pro」というパソコンの立ち位置を簡単に説明しておきたい。
 
Appleは、製品やサービスを一般的な消費者向けに開発している企業なのだけれど、一方でアーティストやプロフェッショナルのような高度な仕事をする人たちにこそ、Appleの製品を使ってほしいと考えている企業でもある。
 
なぜそう考えているのかというと、世界を良いほうへ変革するような製品を開発するというのが、Appleが生まれた時からの信念だからだ。だからこそ、社会を変えるような専門分野の仕事をしているプロフェッショナルの人たちへの共感や共鳴が強く、彼らにこそ愛されるAppleでなければならないという使命を抱いている。
 
プロという名前からも分かるように、「Mac Pro」はAppleが開発しているMacシリーズの中でも、最高峰の性能を持っている。他にある「MacBook Pro」と「iMac Pro」との大きな違いは、「Mac Pro」にはディスプレイが付いておらず、パーツを加えたり交換することで、自分好みにカスタマイズすることができるところである。
 

円筒型「Mac Pro」の失敗?

2013年に発表された新型「Mac Pro」は、以前までのタワー型から姿形を大きく変えて、円筒型になった。個人的には素晴らしいデザインの新型「Mac Pro」だなと感じていたのだけれど、円筒形の「Mac Pro」には2つの大きな問題点が存在していた。
 
1つ目の問題点は、拡張性がとても低かったこと。
 
円筒型「Mac Pro」の開発コンセプトには、省スペースと静音性を実現するというのがあって、その結果、生まれたのが円筒形のデザインであった。ところが静音性と省スペースを追求しすぎてしまい、それまでの「Mac Pro」が持っていた拡張性が失われてしまった。
 
拡張性というのは、PCI Expressという規格のスロットが多く装備されているかどうかによって判断される。スロットが多く装備されていれば、それだけ多くの外部パーツを「Mac Pro」につなぐことでができ、性能をアップしたり、専門的な能力を加えることができる。
 
特に、映像系や音楽系のプロフェッショナルの仕事では、拡張スロットに専用機能のボードを追加して制作作業をすることが多く、円筒型「Mac Pro」はプロという名称なのに、プロの制作作業で使いにくいものになってしまっていた。
 
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2つ目の問題点は、冷却性能が高くなかったこと。
 
円筒型「Mac Pro」では、内部に複数の金属板を張りめぐらせていて、1つの大きなファンをゆっくり回転させて、熱伝導と空気冷却でCPU・GPUを冷ます仕組みになっていた。仕組みとしては理にかなっていて、静音性も高かったのだけれど、プロフェッショナルの仕事では、CPU・GPUに大きな負荷がかかる作業が多い。
 
そうなると、さすがに1つの大きなファンだけでは、空気冷却が追いつかない。そして、CPU・GPUは熱くなりすぎると、熱暴走を起こしたり、計算スピードが遅くなってしまう。
 
大きなファンをゆっくり回すというのは、円筒型「Mac Pro」の構造的な特徴なので、冷却性能が足りないからといって、簡単に修正することはできない。冷却性能に限界があるということは、より高性能なCPU・GPUを導入できないということでもあり、円筒形「Mac Pro」は2つの問題を解決できないまま、窒息寸前の製品となってしまった。
 
そして批判が起こり、Appleは方向転換を決意した。
 
こうなると、本来であれば共感し共鳴しているはずのプロフェッショナルの人たちから、Appleはプロフェッショナルの要望を無視して、プロ向け製品を窒息させようとしている!という強い批判が起こったのも当然である。
 
Appleは、新型「Mac Pro」の開発にあたり、プロフェッショナルの声に真摯に耳を傾けて、プロの仕事の障害となっているボトルネックを、根本から解決することにしたようだ。新型「Mac Pro」では、円筒型が抱えていた2つの大きな問題点をただ解消するのではなく、その2つこそ大きな強みにするべきだと考えたようだ。
 

新しいMac Proに求めた機能1 高い拡張性

先にも書いたように、プロフェッショナルの人たちは、自分たちの仕事に合わせて、専用機能のボードを加えたり、専用の接続口を増やすためのパーツを加えたりすることが多い。また、仕事の発展に合わせて、GPUやメモリを増設したり交換したりすることも多い。
 
そのためには、Appleの独自ボードだけでなく、市販のパーツも増設できるように、PCI Expressなどのさまざまな規格に対応したスロットが複数必要となる。また、誰でも増設や交換が簡単にできるように、全体として整備のしやすい構造であることも重要だろう。
 
高い拡張性は、プロ用の製品だからこそ求めるられる、重要な機能である。
 
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新しいMac Proに求めた機能2 優れた冷却性能

先ほども書いたように、プロフェッショナルの人たちは、CPU・GPUに大きな負荷がかかる作業をすることが多い。それを処理するためには、より高性能なCPU・GPUのチップ、より大容量のメモリを搭載する必要がある。
 
これらのパーツは、すべて通電することで熱が発生するので、計算負荷が大きくなればなるほど、大きな熱が発生する。なので、優れた冷却性能を持っていないと、どんなに高性能なチップを搭載していても、計算能力を発揮することはできない。
 
優れた冷却性能は、高い計算能力や拡張性を背後から支える、重要な機能である。
 
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Appleが、機能から導き出したデザインとは?

2019年に発表された新型「Mac Pro」は、高い拡張性、優れた冷却性能という求める機能を実現するために、前回の円筒型をやめて、タワー型を採用している。タワー型は、円筒型よりも空間上の容積を最大化することができ、求める機能を発揮させるのにピッタリの形である。
 
新型「Mac Pro」のデザインについて考えるとき、あまりに特徴的なので、ついつい「おろし金」とも揶揄されている穴だらけの前面に目が向いてしまう。けれども、新型「Mac Pro」のデザインで本当にすごいのは、あまりにシンプルな基本構造ではないかと思う。
 
新型「Mac Pro」の基本構造は、2本のステンレス製のフレーム、2枚の金属板、1つのアルミニウム性の外殻だけである。私が知らないだけなのかもしれないけれど、ここまでシンプルな基本構造のパソコンは他にないのではないかと思う。
 
自動車・電化製品など、多くの工業製品には大きく分けて2つの構造がある。それは、フレーム構造とモノコック構造で、多くの工業製品はモノコック構造で作られている。
 
フレーム構造は古くから存在している構造で、日本の寺社仏閣などはすべて柱と柱を組み合わせたフレーム構造になっている。モノコック構造が生まれたのは、20世紀に工業製品が大量に生産されるようになってからで、歴史的にはかなり新しい構造である。
 

フレーム構造とは?

フレーム構造とは、金属フレームを組み合わせて全体の重量やパーツを支える構造で、生物の世界だと、骨で体を支えている脊椎動物がフレーム構造となる。
 
フレーム構造は、シンプルで頑丈な構造になるという長所と、重くなるという短所があり、一般消費者が使うような製品ではほとんど使われていない。一方で、構造がシンプルで頑丈なので、工場で使用する機械など、それらの長所が必要とされる製品では重宝されている。
 

モノコック構造とは?

モノコック構造とは、外殻・壁・仕切りなど複数の面で、全体の重量やパーツを支える構造で、生物の世界だと、外殻で体を支えている昆虫などの節足動物がモノコック構造となる。
 
モノコック構造は、内部空間を確保して軽量化できるという長所と、構造が複雑になりやすく、面が壊れたり歪んだりすると全体が機能しなくなるという短所があり、一般消費者が使うような製品のほとんどで使われている。
 
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新型「Mac Pro」は、特異なフレーム構造?

私が知らないだけなのかもしれないけれど、フレーム構造を採用したパソコンは、2019年に発表された新型「Mac Pro」が、パソコン史上初なのではないだろうか?
 
そもそも、Appleという企業は、一般消費者がシンプルで便利だと感じる体験から、製品の外見的なデザイン、内部的な構造や配置にいたるまで、シンプルさと美しさを追求せずにはいられない企業である。特に、スティーブ・ジョブズが復活してからのAppleはそうで、毎年それを追求した結果、最近のMacでは内部にコード類が存在していない。
 
新型「Mac Pro」で求められる高い拡張性、優れた冷却性能を実現するために、フレーム構造を採用するところが、Appleのデザインのスゴいところだ。というのも、パソコン業界のみならず、Appleの「Mac」シリーズもずっとモノコック構造を採用してきたのだから、普通の発想ではそれを覆したりしない。
 
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フレーム構造を採用した利点とは?

新型「Mac Pro」にフレーム構造が採用されたことによる最大の利点は、パソコン内部の仕組みと、パーツの配置をシンプル化できたことではないかと思う。
 
モノコック構造では、外殻・壁・仕切りに合わせてパーツを配置するので、どうしてもパソコン内部が複雑になってしまう。もちろん、歴史上ほとんどのパソコンがモノコック構造なので、仕組みや配置についてのノウハウも多く、他社の設計を学びやすいという利点もある。
 
内部構造が複雑になると、仕組みや配置に大きな制約が生まれる。
 
例えば、新型「Mac Pro」のように、前面から送風ファンで取り入れた空気をまっすぐ背面から出す、という全体としての機能の最適化も、内部が複雑だと簡単ではなくなる。パーツ配置上の制約で背面から空気を出せなかったり、グラフィックボードの冷却ファンと風の方向が合わなかったり、どうしても部分の最適化が優先されてしまう。
 
1つ1つの部分を最適化すると、全体を最適化するのが難しくなるというのは、デザインが正しく行われていない製品やサービスの開発で、よく起こることだ。
 
2019年に発表された新型「Mac Pro」では、フレーム構造を採用することにより、内部を極限までシンプル化することに成功した。そのおかげで、仕組みや配置の制約を大幅に広げることができ、求める全体の機能に合わせて、仕組みや配置を最適化することができるようになった。
 

フレーム構造による機能の最適化?

フレーム構造を採用した結果、新型「Mac Pro」では、3つのファンで前面から空気を取り込んで、まっすぐ背面から出すことができるようになり、CPU・GPUには空気の流れを遮らない専用の大型ヒートシンクを配置することも可能になった。
 
また、新型「Mac Pro」では前後左右の外殻をまとめて外すことができるようになり、360度あらゆる方向からパソコンの内部を整備したり、カスタマイズしたりできるようになった。おかげで多く設置されているPCI Expressにも、簡単に新たなボードやパーツを加えることができる。
 
おまけに、新型「Mac Pro」では外殻にパーツなどを配置する必要がないので、お得意の金属加工技術で、質感が良くて、剛性も高い、アルミニウム製の外殻を作ることも可能になった。
 
外殻の前面については「おろし金」と揶揄されているけれど、無数の穴は、金属板の前後から格子状に並ぶように半円を削ることで生まれた形状である。Appleによると、空気の流れと剛性を最適化しようとして生まれた形状だそうで、独特の機能美が感じられる。

新型のデザインによって、Appleが得るもの?

優れた冷却性能が本当に実現できているのであれば、2019年に発表した新型「Mac Pro」は、多くのプロフェッショナルに大歓迎される製品となるだろう。さまざまなプロフェッショナルが、持つ喜び、使う喜び、カスタマイズして長く使える喜びを感じることになるだろう。
 
それによって、Appleは再び世界を良い方向へ変革しようとする人たちからの共感や共鳴を得られるようになり、信念と現実的なビジネスを結びつけることができる。
 
Appleが製品の本質的なデザインに心血をそそぐのは、本質的なデザインが素晴らしい製品は、長期間にわたって消費者に愛されるという事実があるからだ。21世紀になってAppleが開発した、iMac、Mac mini、MacBook Air、iPadは、長期間にわたって当初のデザインを引き継ぎ、わずかな修正を繰り返しながら、それでも毎年のように人々に愛されている。
 
なので、新型「Mac Pro」もこれから長期間にわたって当初のデザインは引き継ぎ、わずかな修正を繰り返しながら、プロフェッショナルから愛される製品となっていくだろう。フレーム構造のおかげで、内部の仕組みや配置についての自由度が高いので、問題点が明らかになっても、即座に修正できるだろう。
 
表面的な装飾的なデザインでは、長期間にわたって愛される製品にはならない。
 
これが、Appleを世界有数の企業へ押し上げている最大の理由であり、多くの企業が表面的にしかマネすることができない、 Appleのデザイン哲学である。
 
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新型「Mac Pro」のデザイン、どう感じる?

あなたの目には、2019年に発表された新型「Mac Pro」のデザインがどう見えるだろう?
 
やはり「おろし金」と感じてしまうのであれば、それでも良い。
 
あなたがこの投稿をここまで読んでくれたのであれば、Appleという企業が、求める機能を実現するために、根本となる構造的なところからデザインを徹底的に考えて、開発や設計をしているということが、すでに分かっていると思う。
 
もしかしたら、一部の人たちが執拗にApple製品を愛している理由が、自分にはまったく理解できないという人もいるかもしれない。
 
Appleを愛する多くの人が、OSこそ違うものの、同等のスペックであればはるかに安価なパソコンに魅力を感じないのは、素晴らしいデザイン、それを実現するための開発力や設計力が、ライバルの製品にほとんど見当たらないからだ。
 
飛行機に例えると、Appleの製品はスペックでは劣るものの、直感的に操縦することができて、細かな操作にきびきび反応してくれて、トラブルが少なく安定していて、目的地まで快適に運んでくれる飛行機みたいなものだ。
 
プロフェッショナルの人は特にそう感じていると思うけれど、パソコンを仕事や生活で利用する体験全体にとって、高いスペックや計算能力はその一部分に過ぎない。Appleが全体を最適化するためにデザインを追求しているのと同じで、Appleを愛する人たちは仕事や生活を全体として最適化するためにMac・iPhone・iPadを購入している。
 
つまり、部分を重視するか、全体を重視するかの違いなのである。
 
とにもかくにも、2019年、Appleが発表した新型「Mac Pro」は素晴らしい!
 
今回の投稿で、新型「Mac Pro」のデザインの素晴らしさを感じてもらえたら幸いである。
 

2019.06.25 / ウゴモーション / 小野 直人

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